The Quest of Means∞
‐サークルの世界‐
間章 糸を引く者‐desire‐
全てが全体へと溶けて確固たる個を失う空間にて、青年は、寧ろじれったいくらいにゆっくりとした流れの中で『その時』を待たされていた――否、待つしかなかった。このような結果になってしまったのは甚だ不本意だったが、こうなってしまえば、もう彼に抗う術など無かったのだから。
彼はただ、彼女に会いたかっただけだった。
神の分身の力に魅せられ、運命を呪った哀れな男を利用して、世界の根幹たる大樹を掌握し、その中で廻っているのであろう彼女を捜して見つけ出し、そしてこれからは、永遠にその傍に居たいだけだったのだ。
けれど、その願望が叶う事は無かった。
後少しと言うところで、彼は大樹が選んだ『目』の妨害を受け、神の一角が用意していた器によって大樹の許まで送られ、そしてその中へと還される事になってしまったのだから。
(まさか、他ならぬ彼女に阻止されてしまうとは……。これもまた『運命』だと言うのならば、実に皮肉な事ですね。まるで、あの姫君に阻止されたような気分だ)
自嘲すら零れ落ちてきて、彼は諦めが勝って自棄になっている事を知る。それを直視しないようにする為、彼は自身の運命を提示するかのように大樹の中で廻り続ける無数の光へと、その視線を移した。
そこで彼は、一つの光に目を奪われた。
(あれは――)
心臓が止まってしまったかのような衝撃に襲われるくらい、懐かしさと愛おしさを感じさせられる光だった。そしてその正体に、彼は即座に気付いていた。間違える筈が無かった。反射的にそちらへと向かって必死に両腕を伸ばして近付き、触れられない筈のその光を抱き留める。
(ああ、ルーデ)
それは彼にとっての『存在意義』であり、全ての要因と目的でもあった。彼女にもう一度会う為だけに、永遠に共にあり続ける為だけに、彼は世界をも敵に回す覚悟を即決してしまったのだから。
応える事の無い彼女を、けれど彼は愛おしそうに優しく抱き締めた姿勢のままだ。今まで抱いていた強い目的も決意も、とうに枯葉の如くどこかへ吹き飛んでしまっていた。
(ようやく、貴女の許に帰ってくる事ができました)
恍惚の表情となった青年の脳内を、彼女との思い出だけが激流の如く駆け抜けていく。それはまるで、走馬灯のよう。
(ああ、ルーデ。これで貴女と、どこまでも――)
ようやく自らの身体が、ゆっくりと〈マナ〉として解けていく事にも気付かず、ただただ青年は、胸に抱えた唯一無二の魂へと愛を囁いていた。
結局のところ、彼女と共に居られるのならば彼は、後は何でも良かったのだから。
2014.10.21
2018.03.19加筆修正