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間章 忘れざる証‐Urtharbrunnr‐

(こんな私でも、この方々は受け入れてくださるのですね)
 今度こそ全員が揃った死灰の森にて、少女は近い場所で言葉を交わす彼らを眺めていた。その様子を微笑ましげに視界に映しながら、無意識のうちに左手を動かして側頭部に触れ、そこで我に返る。
(そう言えば、もうここには付けていないのでしたね)
 思わず自嘲の笑みが零れた。
(あの人が、私の為にわざわざツィタデーリ峡谷まで入手しに行ってくださった、本物のウルズの花は)
 今この場に無くとも鮮明に思い出せるそれは、彼が彼女を今までのように『妹』と同一視する事無く、ただ一人の存在として見てくれるという確固たる証でもあった。
 けれども、今はもうその花は手元には無い。決して失くしたという訳ではなく、自ら外して仕舞い込んだのだ。彼らを裏切った自分が未だ未練がましくそれを身に付けているのはどうにも失礼な気がしたのと、自戒の為に。
(けれど、私はまだ何一つとして清算を終える事はできていませんから、もうしばらく付ける事は叶わないのでしょうね)
 そこで、ぽん、と肩を優しく叩かれる。反射的に顔ごと視線を持ち上げて後方を見れば、思った通りレオンスが微笑みかけてきていた。何かと気にかけてくれる彼への感謝を表すべく微笑み返し、そしてすぐに視線を元の方向に戻す。
 ただし、今回その先に居るのはたった一人だけ。思い詰めた表情をする、他ならぬ彼女だけ。
(それでも、今はそちらよりも先に優先する事ができてしまった私を赦してください。汚い部分も含めて私を受け入れてくれる方々に、あの人達以外では初めて出逢えて、そして救われた気がするのですから)
 持ち上げた両方の手を胸の前で重ねるようにして握り締め、目だけで仲間達を見回す。
(だから、今度は、私が彼らの力になってさしあげたいんです)
 そして、まるで神へと祈るかのように彼女は重ねた両手に力を込めた。

  2014.02.03

​  2018.03.16加筆修正

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