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間章 力持つ者達‐recognition‐

 ぱちぱちと焚火から飛び出した火の粉が爆ぜる。
 それを眺めながら、少女は誰にも気付かれないくらい小さな溜め息を零した。両手に持ったコップは中身の液体ごと、とうに冷めている。季節は初冬故、夜になると昼間以上に冷えるが、だからといってコップの中身を温め直す気にはどうしてかなれなかった。
 焚火の前に座る少女から少し離れた場所では、人々が寝具を身に纏い眠りに就いている。
 そちらに異常が無い事を確認してから、再び少女は手元へと視線を落とした。
(皆さんは、彼が『悪』だと思われているのでしょうか)
 ふと、気泡が発生するように疑問が生じる。
 そのように認知している様子が窺えたのは、彼ら全員というよりは特定の者だけだが、それでもあのやり取りと対応を目にしているならば、同じような認識を抱いていても何ら不思議な事ではない。実際あの場に少女は居なかったが、自身の特権でその事実については知り得ている。
 だが、少女は決して彼が『悪』ではないと理解していた。
 上に立つ者は、時として非常でなければならない。公平に、公正に、全体にとって最善の策を選ぶ為に。その為に小数を切り捨てる事になろうとも、それを躊躇してはならないのだ。
 しかも、歴史上の統治者達に比べれば彼は優しすぎる方だ。『彼女』曰く不器用なだけで、だから誤解されやすいだけで。
(ですが、それを受け入れられないのが生命というもの)
 首から上だけを動かして夜空を見上げる。昔家族と共に眺めた空は、未だ変わらぬ美しさを誇っていた。キャンバスに散りばめられたような星屑は、けれど現在では過去のように心を癒してはくれない。それが自分自身の変化によるものだと少女は知っている。
(……そして、それは昔の私も同じ事)
 そのままゆっくりと、少女は瞼を下ろした。
 まるで、今だけ世界を拒絶しようとするかのように。

  2013.09.12
  2018.03.13加筆修正

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