top of page

間章 全を制す者‐monologue‐

 その視界全てを濃霧に覆われた迷いの土地――[ブルイヤール台地]を少女は行く。
「きっと、今の私の方が正しくあるのでしょう」
 左右を向いても前後を向いても四方八方どこを見ても霧しかない筈の場所で、何の躊躇いも無く足を動かしながら。
「けれど、昔の私の方が解っていたのでしょう」
 両方の瞳を閉じて世界を拒絶し自身を隔絶し、まるで生前の未練に縛られてしか動けない幽鬼の如く彷徨いながら。
「私は、何て不明瞭なだけの存在なのでしょう」
 自分自身の存在自体を否定する言葉を唇の端から零しながら、彼女はいずこかへと向かってその歩みを進めていく。
「だけど、それが私という魂の本質なのだから」
 ふと足を止めて、歌うように紡がれていた独り言も止めて、彼女は閉ざされていた両目をゆっくりと開く。
 開かれた先にあったのは、黒。
「時計の針は停止する事無く動きます。今現在、総てが予定通りに進行しているのでしょう。けれど、歪みは未だ続いているのですから、修正しなくては」
 自身に言い聞かせるように言葉を紡いでから、少女は白濁した靄に隠されている不可視の天を仰ぐ。
「『揺るぎない強い意志があれば、運命は変えられる』、ですか」
 再び乾いた地へと視線を戻して、ただひたすらに自らを嘲笑う。
「運命なんて、変えられる筈が無いのに――」
 そして、少女は淡々と呟いた。

  2011.04.09
  2018.03.10加筆修正

ページ下部
bottom of page