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八章 《召喚士》‐espri‐(16)

「あ、待って!」
 背後から少年の声が飛んできたが、そちらは振り払うと、《鋼精霊》アシヒーはどこへともなく去っていった。
「行っちゃった……」
 残念そうにその後ろ姿を見送るマンスへと、アシュレイは控えめに声をかける。
「マンス」
「ぼくはね、さっきも言ったけど人工精霊みんなを救いたいんだ」
 彼女に応えるかのように話し始めた少年は、未だ背を一向に向けたままだ。未だ抱かれているモナトの姿も見えない。
「でも、ぼくはまだまだ未熟で、さっきもあの子を助けられなかったし、アシヒーに心を開かせる事もできなかった……」
 最後の方になる程に、少年の両肩が震える。
「だから!」
 振り返った少年の面に浮かんでいたのは、決意の表情だった。
「だから、ぼくに力を貸してください!」
 そしてそのまま頭を下げてくる。抱きしめられている白猫もまた同様の行動を取っていた。
 純粋で真剣で真摯な二人を見た一行は、互いに顔を見合わせて微笑み合う。
「ええ、良いわよ」
「ああ、おまえの決意は本物だしな」
「それに私達としても《精霊使い》を放ってはおけないからな」
「『そういう事なのだ!』――とある少女の言葉」
「みんなもそう言ってるし、これから宜しくね、マンス」
 声をかけられて頭を上げた少年が見たのは、それぞれの言葉によって手を差し伸べてくれている五人の姿だった。そこには彼を否定する者も嘲笑う者も居らず、自然と笑みが広がっていく。
 そうして彼は、眼前の彼らへと跳び付かんばかりに駆け出したのだった。
「うん! よろしくね、おにーちゃん、おねーちゃん!」

  2010.12.04
  2013.04.12改訂
  2018.03.09加筆修正

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