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三十七章 聖なる悪夢‐convertimini‐(4)

 少年の言葉に対し、レジナルドは自慢げに頷いてみせた。
「そう、元〔機械神〕のアリアネが、今じゃあ俺の嫁さんなんだよなぁ」
「そう言えば、おまえは何度振られても、めげずによくアリアネにアプローチをしにきていたよな」
 元〔機械神〕であるレオンスは言われてみれば彼に覚えがあったらしく、呆れたように納得していた。
 また、これによりレジナルドは彼の正体を察する。
「おっ、そう言うおめぇさんは、確か、レイフ……だったよな? そうかそうか、アリアネの他にも生き残りが居たんだなぁ!」
 途端に嬉しそうな表情となるレジナルドだったが、レオンスは逆にばつの悪そうな色を覗かせ始める。
「まあ、な」
 歯切れの悪い声だった。
 事情を知っている一行はすぐに彼の心中を何となく理解するが、知らないレジナルドの方は怪訝そうな顔になる。
「それで、レ……オーツさん、あまり猶予は無いかと思われますので、即急に本題に戻ってはいただけませんか?」
 けれど、追及の機会を与えない為にも、オーラが急かすかのように話題の軌道を修正していた。ただし、彼女の方もついつい昔の癖を発動しかけていたようだったが。
 レジナルドの方は彼女に声をかけられた上、愛称で呼ばれかけたという事実に意識を奪われてしまったらしく、驚愕の顔でそちらを見た。だが、すばやく本題を思い出したようで表情を引き締める。
「そんでだ、見ての通り外からは入れねぇからな、俺が手引きしてやるよ。ちょうど良い抜け道があるんだよなぁ、これが」
 これを聞いたターヤはふと疑問を覚える。
「そう言えば、〔騎士団〕にも〔軍〕にも裏口みたいなのがあったよね」
「でっけぇ組織ともなりゃ、もしもの時の為に、外に出る抜け道が必要になんだよ」
 答えながらレジナルドが向かった先は、他でもないカタフィギオ湖であった。
 この行動により、皆は彼の言う『抜け道』の正体を推測する。
「もしかして、湖の中を通るの?」
「おう、こん中から、大聖堂の地下通路に入れるようになってんだぜ」
 確認のための質問には、どこかからかいの色を含んだ声で肯定された為、思わずターヤは呆気に取られてしまう。
「それに、おめぇさん達には魔術に長けた奴もついてんだろ?」
 そう言いながら、レジナルドは意味あり気な視線をオーラへと寄越す。
 驚きに見舞われながらもそれを正面から受け止めて、そして彼女は相手の思惑に乗ってやった。
「はい。私でしたら、皆さん全員を問題無く移動させられます」
「おうよ、そうこねぇとなぁ」
 表情を満足げなものに変えてから、ふと思い出したようにレジナルドはターヤへと目を向けた。
「そうだ、嬢ちゃんに謝らねぇとならねぇ事があんだった」
「えっ?」
 急に申し訳無さそうな顔となった彼に、ついターヤは身構えてしまう。
 そんな彼女へと、レジナルドは頭を掻きながら説明する。
「実はな、アリアネにおめぇさんの話をしてた時に、どうも《女王陛下》の嬢ちゃんに聞かれてたみたいなんだよなぁ。……あの嬢ちゃんに何かされなかったか?」
「道理で、あいつがターヤが《神子》だと知ってると思ったわ」
 これを耳にした瞬間、息を吐き出したのはアシュレイの方であった。
 逆に、当人であるターヤはその事など全くもって気にしておらず、彼の動作から、やはりアクセルの親戚なのだなと改めて感じていた程度だ。寧ろ、その事などすっかりと忘れかけていたくらいである。
「うおっ、やっぱりあったんだなぁ」
 アシュレイの反応により、レジナルドはばつの悪そうな顔となる。
 それに気付いたターヤは慌てて訂正する。
「あ、ううん、全然大丈夫だったから!」

「いや、利用されそうになってたじゃねぇかよ」
 しかし、即座にアクセルが呆れを含みながら指摘した為、レジナルドは益々肩を落としてしまった。
 言ってから自身の失態を知ったアクセルは、彼と同じような表情になる。
「行かないの?」
 そして、彼のせいではないのだと理解してほしかったターヤだが、スラヴィが尤もな疑問をぶつけてきたので、結局訂正する事は叶わなかった。
 それから、オーラが使用した〈水泡〉に包まれてカタフィギオ湖に潜った一行とレジナルドは、彼の案内に従って水中を進んでいく。この支援魔術は水中での行動を楽に行う為のものらしく、息が苦しくなる事も溺れる事も濡れる事も、一度として無かった。
 こうして難無く一行は、排水溝らしき場所から大聖堂への侵入に成功する。それと同時にオーラは魔術を解く。
 そこはレジナルドが言っていた通り、地下通路らしき場所だった。壁には何も塗られておらず、清掃も偶にしか行われていないのか、ゴミも散見された。
「ここを通れば簡単に《教皇》の間まで行けちまうんだよなぁ、これが」
「って事は、いきなり《教皇》と戦う事になるの?」
「いや、その前にエルシリア・フィ・リキエルと、ソニア・ヴェルニーが出てきそうな気がするな」
 不安そうなマンスの問いには、レジナルドではなくレオンスが答える。
「そうかもしんねぇなぁ。《教皇》の奴、どうもまだ《司教》の嬢ちゃんを支配下においてやがるみたいだからなぁ」
 彼の意見にはレジナルドが頷き、呆れを含んだ声色でそう言った。
 これを聞いたターヤは心臓を締め付けられたかのような気分になる。どうして、と叫びたくもなった。
「とにかく、とっとと行くわよ。そいつらが出てこようが出てこなかろうが、立ち塞がるのなら倒すまでだわ」
 きっぱり言いきると、アシュレイは先頭となって進んでいく。
「相変わらず、こえぇ嬢ちゃんだなぁ」
 わざとらしく肩を竦めてみせてから、レジナルドはその後を追う。
 他の面々も続いていく中、同じように行動しながらも、ターヤとアクセルはそれぞれ複雑な心情だった。支障になりかねないのでなるべくひた隠しにしようとは思ったのだが、特にターヤはそれが上手くできていなかった。
(エルシリア……)
 それでも、そこに触れる者は居なかったのだが。


 地下通路には一人も見張りや巡回が居なかった為、速足気味に進んでいた一行は、すぐに行き止まりへと至った。
 これにはマンスが拍子抜けしたような顔になる。
「ぜんぜん待ち伏せされてなかったね」
「そう、だね」
 特にエルシリアに会わなかった事に少しだけ安堵しながら、ターヤは彼に同意する。ただ盲目的なまでに《神子》を慕う彼女とは、どうにも、どんな相手以上に戦いにくく感じられるのだ。しかも、まだ《教皇》の支配下に置かれているそうなので、益々躊躇われるのもあった。
 案内が完了した事を確認すると、先頭に立っていたレジナルドは身体の向きを反対にして全員を見回す。
「さてと、俺はここまでにさせてもらうぜ。そろそろ大聖堂の前んとこに集まってる奴らが動き出しかねねぇし、そっちを止めねぇとなんねぇんでなぁ。お、そうそう、こっから《教皇》の間に続く通路に出れっからな。今なら警備の奴らは大して居ねぇだろうし、おめぇさん達なら問題無さそうだろ?」
 この言葉によりレオンスは、レジナルド自身も〔教会〕を止めようとしていたのだと知る。
「おまえも、最初からそのつもりだったんだな」

ボーラ

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