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二十九章 拭えぬ過去‐Axel and‐(14)

『はい』
 再び応えを貰えた事で更に喜びは増し、けれど対照的に罪悪感もまた一気に膨れ上がった。
「っ……ミネ……ミネ、ミネ!」
『はい、何でしょう、グィード?』
 自身の罪から逃れようとするかのように縋るよう名を呼んでも、彼女は嬉しそうな笑みのままに応えてくれる。まるで、最初から彼と彼女は友人であるかのように。
「――っ!」
 瞬間、罪悪感が限界まで達してグィードは息を飲んだ。
「俺、は……俺はっ……!」
 続いて感情のままに言葉が口から飛び出し、彼女に何かを伝えようとする。
「……ごめん……!」
 だが、結局言えたのは、たったそれだけだった。
 それなのに、彼女は微笑んでくれた。まるで大丈夫だと宥めてくれているかのように、ゆっくりと頷いてみせる。
『はい、ちゃんと届いていますよ、グィード』
「っ……!」
 もう、限界だった。彼女の天然っぷりに押されて抑圧されるかのような形になっていた感情の奔流が、途端に堰を切ったかのように口から次々と飛び出していく。
「何、で……何で、俺なんかにそうやって笑いかけられるんだ! 俺は《羽精霊》と《鉄精霊》を殺したんだぞ!? それに、俺は……俺達は、あんたをっ……!」
 それ以上は言えなかった。これは自分が行ってきた所業で罪そのものだと言うのに、現実に目を合わせてしまった彼は、それを認めたくなくなってしまったのだ。自分は加害者で彼女は被害者なのだという事実からグィードは逃げ出したくなっており、そして同時にそのような自分自身を恥じてもいた。
『でも、今の貴方には、私を害するつもりなど微塵もありませんよね?』
 けれども《鉱精霊》は、それが何だとでも言うかのように首を傾げてみせただけだった。
 間違い無く彼女の言う通りだった。精霊が自分達人間と同じ生命だと知ってしまった彼は、もう《鉱精霊》に対しても人工精霊に対しても何もできそうになかった。否、したくなどなかった。
 そして、以前はお伽噺だと馬鹿にしていた『精霊は人の心を見抜く』という言葉を、今になってグィードは実感してもいた。確かに彼らは相手の思惑を見透かす事ができるのだ。
 呆然と立ち尽くしてしまった男性へと《鉱精霊》は柔らかな表情で微笑みかける。
『ですから、私は貴方を信じてみたいのですよ、グィード』
「……!」
 それが、とどめに等しかった。
 次の瞬間グィードは泣き崩れていた。みっともない自覚は頭の片隅に残っていたが、それでも涙は止められなかった。彼にできたのは、何とか声を押し殺す事だけだった。
 そんな男性を、《鉱精霊》は何も言わずに聖母のような眼差しで見守るだけだ。
 無機質な部屋の中に、その泣き声はしばらく木霊していた。

 

  2014.01.11
  2018.03.16加筆修正

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