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二十七章 燃え立つ炎‐zeichen‐(14)

 そんな二人のやり取りを眺めながら、ターヤは未だ情報の少ないレオンスの故郷らしき場所について思いを馳せていた。
(そう言えば、皆の故郷って、まだどこにも行った事は無いなぁ)
 そもそも、皆の故郷の名称すら知らない気がするターヤであった。
(でも、アクセルやアシュレイみたいに過去にいろいろとあって話したくないのかもしれないし、無理に訊くのは良くないよね)
 うん、とターヤは脳内で自身にそう言い聞かせて自ら頷き、そこについてはこれ以上考えない事にする。
 ちなみに、断片的に聞いた事のあるアクセルとアシュレイの過去が、彼らの故郷と関わりがあるのか否かは実際知らなかったが、そう思う事にしておいた。そうすれば自分が彼らにそのような話を振る事は無くなるだろう、と見越しての事である。
 その横を歩くマンスの顔色はどこか悪かったが、彼女はその事には気付かなかった。
 外に繋がる道はそれほど長くはないらしく、前方に見える光はどんどん大きくなっていく。
 そして外界へと出た時、ターヤは目を瞬かせた。
 視界に広がるのは、見渡す限り緑に包まれた光景だった。その中には少し古風な建物が幾つか点在しており、ここが都市と言うよりは集落である事が解った。恐らくここはリンクシャンヌ山脈の中なのだろうが、それにしては緑が多いように思える。
(何だか、この世界での一昔前の村って感じだなぁ)
 実を言えば見た事など無いターヤだったが、そのようなイメージを抱いていたのである。
 と、そこで彼女は隣に居るマンスが呆然と立ち尽くしている事に気付いた。
「マンス?」
「召喚士一族の、里……」
 どうしたのと問うよりも先に、そのままの表情で少年が呟く。
 彼の言葉が耳に届いたらしく、他の面々が弾かれるようにして彼を見た。ただし、皆はその呟きの内容の方に反応を示していたのだが。
(ここが召喚士一族の里で、その事を知ってるって事は、マンスはやっぱり召喚士一族だったの?)
 納得できない事ではなかったが、それならばなぜ信頼してからでも言ってくれなかったのか、とターヤはほんの少し不明瞭な気持ちになってしまう。
 しかし、おそらくそうではないかと予想できていた面々は、やはりと言わんばかりの顔をしていた。
 一行の反応には気付かず、レオンスの目的地がこの場所である事に大きな反応を見せているマンスは、震える声で先頭に居る彼へと問いかける。
「何で、レオのおにーちゃんがこの場所を知ってるの?」
 少年の問いに、青年が振り向いて応えようとした時だった。
「帰ってきたのか、レイフよ」
 突如として割り込んできた第三者の声に皆がそちらを見れば、そこにはマンスと似たような服装――和服を纏った一人の女性と、その後ろに付き従う同じく和服の者達が居た。
「マリサおばーちゃん!」
 マンスの上げた声には一行が驚き、そして彼女を見る。
 けれども、女性の方は少年も一行も見てはいなかった。その眼はただ一人、レオンスだけに向けられていた。そこに宿っていたのは、友好的とは言いがたい感情だ。
「よくものこのこと戻ってこれたものだな、我が召喚士一族の面汚しめ」
 え、と、誰のものとも判らぬ間の抜けた声が上がった。

  2013.12.26
  2018.03.15加筆修正

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