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十八章 暗転する光‐shock‐(11)

『ありがと、だから、まもる』
 幼いながらも強い決意の籠った言葉を口にすると、彼女はぎゅっと目を瞑って口を閉じ、全身を丸める。自身を抱え込むかのようなその姿に、直感的に少年は彼女がしようとしている事を理解した。
「だめだよ、プルーマ!」
 反射的に手が伸びていた。
 彼女は――《羽精霊プルーマ》は、〈マナ〉の過剰摂取による爆発を自身の内部だけに抑え込み、この場で死ぬのを自分だけに止めるつもりなのだ。
 だからこそ、無我夢中でマンスは手を伸ばす。
「プルーマ――」
 もう少しだ、と思ったのに。
 手が届く前に、《羽精霊》が膨らませられている風船の如く内側から一気に肥大する。
「マンスール!」
 慌ててレオンスが手を伸ばしてマンスを鳥から抱き込むようにして引き離した瞬間、
 少年の眼前で、彼女は爆散した。
「――っ!」
 声にならない悲鳴が上がる。
 それは一瞬の事で、人工精霊故に肉塊が飛び散る事は無かったが、彼女を構成していた〈マナ〉と《精霊使い》のよって強制的に注入されたであろう〈マナ〉とが、その残骸だと主張せんばかりに先程まで《羽精霊》が居た場所を中心に降っていた。

 それはまるで、抜け落ちた羽根のようだった。
 その光景には、マンスの目が大きく見開かれる。
 隣では《月精霊》もまた顔全体を蒼白にしていた。
 彼とレオンス、並びに一行をその衝撃から護っていた《風精霊》は、思わず視線を逸らす。
 それらのうちの〈マナ〉の一部が自身へと降りかかってきた時、ようやく少年は現実と直面したのだった。両目が更に、限界まで見開かれる。
「プルーマァァァァァ!」
 少年の悲痛な絶叫が、海底洞窟に木霊した。


 ほぼ同時刻、《精霊使い》を追っていた《鋼精霊》は、突如として全身の力が抜けるような感覚に襲われていた。
『何だ……!?』
 思わぬ事態にその場で立ち止まらざるを得ず、彼はそうしてから自身の身体を見下ろした。しかし特にこれといった外傷がある訳でもなく、別に痛みを感じる訳でもない。
 ただ、ひどく全身がだるいだけだった。
 似たような感じは、以前《精霊使い》の呪縛から解き放たれた時にも一瞬感じた覚えがあるが、あの時はすぐに何事も無かったかのように回復しただけに、今回のこの状況は訳が解らないのだ。
 この異常事態に《鋼精霊》は戸惑うしかなかった。
『……?』
 それが《鉱精霊》から自身への〈マナ〉の供給が途絶えた事の証であるとは、現時点での彼は少しも気付いてはいなかった。

  2013.06.13
  2018.03.12加筆修正

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