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十三章 喪う者達へ‐ordeal‐(16)

 ユルハに見送られながらミーミル報道本社を後にした一行は、必要なアイテムなどの補給を済ませてから首都を出た。ちなみに、やはりアシュレイとレオンス、アクセルの三人はフィールドに出るまで周囲を警戒していた。
 首都から少し歩けば傭兵街道はすぐで、一行はそこに足を踏み入れた。
「えっと、傭兵街道って、確かゼルトナー闘技場に〔戦神の万屋〕っていう傭兵ギルドがあって、そこに繋がってるからそう呼ばれてるんだよね?」
 本で仕入れた知識が合っているか確認するべく隣のレオンスを見上げると、彼はその通りだと頷く。
「ああ。あと、ここでは闘技場に挑戦する前の腕試しも行われてるんだ。その役目を金銭などを渡す代わりに引き受けてくれる意味でも、ここは『傭兵街道』なんだよ」
 彼が指差した先に視線を動かせば、戦う二人の人物と幾人かの見物人が見えた。
「あれがそうなんだ」
 興味深そうに見つめるターヤの後ろでは、周囲に溢れる熱気に戦闘意欲をかき立てられたのか、アクセルが面白い物を見付けた子どものように忙しなく視線を動かしていた。
 その様子に肩を竦めるは、マンスとスラヴィ。
「赤、落ち着き無ーい」
「『落ち着き無ーい』――とある少年の言葉」
 相変わらずスラヴィはマンスの真似をしているが、アクセルはそれどころではないのか全く少年二人には気付いていなかった。
 そしてその更に後ろでは、エマとアシュレイがユルハに貰った地図を見ながら話している。
「それにしても、この忘れられた茶屋という場所、初めて聞きました」
「そうだな、多分知る者しか知らないような場所なのだろう」
「なるほど」
「よぉ、兄ちゃん達!」
 そこで一行に声がかけられる。思わず立ち止まった皆が振り向けば、そこ居たのは体格の良い一人の男性だった。その背には戦斧が背負われている。
 彼への対応は先頭に居たレオンスが引き受けた。
「俺達に何か用かな?」
「兄ちゃん達、闘技場に出場すんだろ? どうだい、その前に俺で腕試ししてかないかい?」
「まじか! なら――」
「悪いが、先を急いでいるのでな、またの機会にさせてもらう」
 男性の言葉に反応しかけたアクセルの言葉はアシュレイが殴って遮り、それを無かった事にするべくエマが前に出て強めの口調で主張した。
 しかしそれを訝しむ事も食い下がる事も無く、男性はあっさりと引いた。
「そうかい、それは失礼したな。けど、出場するんだったらそん時は声かけてくれよ?」
「ああ、そうさせてもらうよ」
 最後はレオンスが笑顔で対応し、一行は男性から離れて更に道を行く。
 アクセルは後ろ髪引かれるのか名残惜しそうだったが、アシュレイに引っ張られているので渋々歩いていた。
「いってぇ……何すんだよ、暴力女」
「あんたが当初の目的を忘れかけるのがいけないわ」
「うっ」
 図星故に言い返せず、アクセルが黙った時だった。
「どうやら、ここのようだな」
 エマが目的地へと繋がる道を発見し、一行は彼の先導に従って進む。そこは人通りの多い街道から外れた獣道だった。
「草がすげーな……おい、ターヤとかマンス、大丈夫かよ?」
 振り返ったアクセルに、ターヤは首を振った。
「うん、エマやアクセルが先に進んで道を作ってくれてるから大丈夫」
「赤のおかげってのはすっごく癪だけど、だいじょぶ」

「おまえは一言余計なんだよ」
 はぁと嘆息するアクセルだが、それでも彼がなるべく草を強く踏み倒して道を作ってくれている事を知っているので、ターヤにはそれが照れ隠しにも見えた。
「ここのようだな」
 草をかき分けて進んだ先にあったのは、一軒の廃墟だった。元々は和風な茶屋であったらしい痕跡が多く見受けられるが、建物自体は蔦が伸びて絡み付いていたり埃や泥に塗れていたりと、既に使われず放置されている事は誰の目にも明らかだった。
「ここが、忘れられた茶屋」
 興味深げに近寄り観察を始めたアシュレイとは対照的に、アクセルは近くの木の幹に寄りかかると目を閉じた。
「ま、気長に待つとしよーぜ」
「そうだな」
 レオンスも同意すると、茶屋と周囲の様子を眺め始めた。
 ターヤとマンス、スラヴィは店先の椅子がまだ使える事を確認してから、できる限り汚れを払ってそこに座った。
 エマは通ってきた獣道の近くに陣取り、いつ来ても良いようそこに視線を固定している。
 そうしてそれぞれが好きなように過ごしながら、待つ事数十分。
「「!」」
 獣道を掻き分けて進んでくる足音に気付いた面々が、素早く姿勢を正し、そちらへと視線を動かした。一応念の為、武器に手をかけながら待ちかえる一行の前に現れたのは、マントとフードで全身を覆い隠した長身の人物だった。
 警戒は続けながら、アシュレイが一歩前へと踏み出す。
「あんたが、ユルヨ=ユハニさんの言ってた奴?」
「そうだ。すまない、待たせたな」
 淡々と言い放った男の、フードを取り払った先に見えたのは、銀髪。

 そして、その顔をアシュレイは知っていた。
「! あんた……《迷走の、水瓶座》?」
 一行の前に現れたのは、元〔十二星座〕がギルドリーダー、ウォルフガング・ラウリアだった。

 

  2012.11.11
  2018.03.11加筆修正

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ミストホーロス

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