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十三章 喪う者達へ‐ordeal‐(12)

「来るわよ!」
「りょーかいっ!」
 同時に駆け出すアシュレイとアクセル、待機するエマとレオンス、詠唱を開始するターヤ、どうすれば良いのか解らないマンス、何もしないスラヴィ、そして静かに二人を見据える《情報屋》。
「――〈能力上昇〉!」
 詠唱完了と共に前衛二人のステータスが増す。二人はそのままエディットと相対しようとする。
「悪いけど、今回の君達の相手はエディットじゃないから」
 だが、唐突なフローランの言葉と共に、四方八方から一斉に騎士が現れた。
「「!」」
 無論、後方の六人もそれは例外ではなく、彼らにも騎士達が襲いかかる。それによりスラヴィもマンスも戦闘に参加せざるを得なくなった。
「何だと!?」
「いつの間に――」
 驚いて後方を振り返った二人の隙を付き、エディットはその間をすり抜けて他のメンバーが居る後方へと向かう。
「行かせると――」
「おっと、てめぇらの相手はこっちだ、《暴走豹》さんよぉ」
 咄嗟に追おうとしたアシュレイだったが、アクセル共々大勢の騎士達に周囲を囲まれる。
「《死神》の奴に従うのは癪だが、そうしとかねぇと後がめんどくせぇし、何より相手がてめぇだからなぁ。つー訳で、俺らの相手してもらうぜぇ?」
 先頭のリーダーらしき人物が武器を手にしながら笑えば、後ろの騎士達も同様に構えた。その数は二人を相手にするにしてはあまりに多かった。
 それでも彼女は不敵に笑う。
「上等ね。アクセル、背中は任せたわよ」
「そっちこそ任せたぜ、アシュレイ」
 互いに言った直後、二人はそれぞれの戦闘へと移行した。
「『展開』」
 一方、後方ではエマが不可視の盾を顕現させて詠唱中の二人を護っていた。
「『渦巻く力の本流となりて』――」
「『火の化身よ』――」
 その反対側では、レオンスとスラヴィが騎士を相手取っている。レオンスが地上で後衛二人に邪魔が入らないよう防戦を行っている間、スラヴィは空中を身軽に移動し相手方を混乱させていた。
「――〈技攻上昇〉!」
 そこに、ターヤの支援魔術が発動した。
 マンスの詠唱は、まだ続く。
「――『その気高き焔を我に貸し与え給え』――」
「ようやく、か」
 その間、支援により物理攻撃力を高められたレオンスは防御から攻撃へと転じ、自分の前方に居た騎士達を一撃で薙ぎ払う。騎士達が怯んだ隙に、今度は短剣を小手に持ち変えて相手の武器を弾き飛ばした。
 ここまでの戦闘で、ようやく彼の正体に気付いたらしき騎士が驚きを顕にする。
「! こいつ、〔屋形船〕の頭領か!」
「御名答。さて、次は誰だ? 俺は誰でも構わないがな」
 余裕の表情を浮かべながら手で武器を弄ぶレオンスは戦闘に備えていないように思えるが、実際は一つの隙も見せてはいなかった。
 それが肌を差す空気で感じ取れる為、騎士達は一歩も動けなくなる。
「来ないのなら、俺から――」
「――『我が喚び声に応えよ』!」
 レオンスの言葉が終わる前にマンスの詠唱が完成し、それまで閉じていた瞼を押し上げて少年は叫んだ。
「みんな下がって!」

「おっと、これは危ないな」
 気付いたレオンスは、身体の向きを変えぬまますばやく後方へと下がる。
「〈火精霊〉!」
 その直後、マンスの上空に炎を纏った龍が現れ、瞬く間に全域を業火で覆い尽くしたのだった。
「マ、マンス! これって大丈夫なの?」
 眼前の光景に慌てるターヤだが、マンスは得意げな顔だ。
「だいじょーぶだよ、おねーちゃん! サラマンダー、もう良いよ!」
『承知』
 マンスの呼びかけに応えるようにして聞こえたのが、彼の言う『サラマンダー』の声だったのだろうか。ともかく、その応答と共に《精霊》と業火も綺麗さっぱり消え失せる。
 後に残ったのは、無傷で倒れ伏す騎士達だけだ。
「燃やすも燃やさないも、ぼくとサラマンダー次第だからね! どう? ぼく、なかなかやるでしょ? まぁ、全部倒せなかったのは、ぼくのりきりょー不足だけど」
 表情を一変させて苦々しげに言う視線の先には、まだ多くの騎士達の姿があった。後方に居た為に、火焔の輪から逃れる事のできた陣営であろう。
 これにはレオンスも嫌そうな表情を覗かせた。
「これは、まだまだ苦戦しそうだな」
「だが《最終兵器》と《死神》がこれ程多くの騎士を従えてまで『確かめたい事』とは……」
 構えつつも思考を巡らすエマの言葉にレオンスはある仮説を思い立ち、慌てて周囲に視線を向けて、そこでようやく『彼女』が居ない事に気付いた。
「オーラはどこだ……!?」


「僕はね、時々考えるんだよ」
 眼前で繰り広げられる戦闘を岩の上に腰かけて見下ろしながら、フローランは随分と大きめの独り言を口にした。
「この世界は、生命にはどうしようもない事に満ちているんじゃないか、ってね。十年前の〈神災〉だってそう。あれは、人にはどうしようもならない事で――けれど、神にはどうにでもできる事だったんだもの。だって、そうだよね。訊いた話によれば、あれは神をその身に宿す器の仕業だったんでしょ?」
 そしてその視線を、戦闘を続ける片側の少女へと向ける。
「ねぇ、そこのところ、君はどう思う、《情報屋》? それとも、《神器》って呼んだ方が良いのかな?」
 その人物こと《情報屋》は、絶え間無く放たれる糸を防御魔術で拒み続けながら、顔色一つ変えず、けれど無表情で即座に答えた。
「どうぞ、ヴェルヌさんの御好きなように御呼びください」
 言いながら、魔術が切れた隙を狙った糸を右手で持った魔導書で弾き返す。
「なら、変わらず呼び続けさせてもらうよ、《神器》」
「〈星〉」
 答えの代わりに放たれたのは、攻撃魔術。標的は、フローラン・ヴェルヌ。
「――否定」
 だが、それをみすみす通すようなエディットではなかった。すばやく彼の下に戻ると、糸を何重にも合わせて構築した最小限の盾で、砲弾の如く一直線に飛んできた魔術を相殺する。
 こうなる事は《情報屋》も予測していた為、先刻の攻撃は防がれる事を前提とした初級魔術であり、彼女自身は既に次の魔術に移行している。
「〈竜巻〉」
 間を開けずに発動したのは、上級魔術。
 無詠唱且つ一瞬にして行われる構築を経ての魔術発動、それは《神器》たる者と、〈世界樹〉の加護を受けた者にのみ許された行為。例えエルフやドウェラーという特殊能力を有する種族であろうと、絶対に不可能とされる『神の御業』である。

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レガリア

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トルネード

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