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一章 目覚めた私‐memory loss‐(16)

 そして、その翌日。
 ターヤ自身にとってはスタート地点にも等しい、始まりの街エンペサルから南東の方向に進んだ場所に位置する、目的地ことインへニエロラ研究所跡に辿り着いた時、彼女は思わず唖然としてしまった。
「うわぁ、幽霊屋敷」
 この言葉が最も的確に思えたからだ。
 何せ、実際は『屋敷』でないにしても、そこは外観からして『幽霊屋敷』だった。壁の見える面には空き放題に蔓や蔦が絡み付き、細かなヒビが所々に窺える。窓硝子も無残なありさまとなっており、誰が取り付けたのか釘で板が固定されていた。元々は大規模な研究所だったらしく建物自体は大きいのだが、それでもやっぱり幽霊屋敷にしか見えない。
 そう考えていた矢先にエマが呟いたのは、それを助長するような内容だった。
「言い忘れていたが、ここは一部では『幽霊研究所』とも呼ばれており、心霊スポットでもあるそうだ」
「それを先に言えや!」
 すかさずアクセルが声を荒らげてしまう程である。
 同様に聴いていたターヤはといえば、思わず少しの寒気を感じてしまった程だ。
「あぁくそっ! このクエストぜってぇハズレだ……何か出そうだろ。こうなったら、とっとと終わらせるぞ!」
 一人で勝手に激しい浮き沈みを繰り返して、アクセルはどしどしと大股で先に進んで行ってしまった。
 その後ろ姿を、残された二人は唖然として見ている。
「行っちゃった」
「全く、あの男にも困ったものだ。ところで、ターヤ。その帽子はどうしたんだ?」
「あ、うん。何だかちょっと物足りない気がしたから、昨日買ってみたの」
 そう言いつつ、頭の上に手を伸ばしてそれに触れる。
 元から身に着けていたワンピースとブーツ同様に白い、先日メイジェルに案内してもらっている時に購入したキャスケット。それは自分で確認したところでも服装に合っており、試着してみれば即決だった。
 なかなか可愛い感じにコーディネートできたのでは、と密かに自画自賛していると、その行為を別の意味で解釈したらしく、エマが笑いかけてきた。
「良く似合っているな」
「!」
 その笑みと言葉に、またも胸が高鳴る。それは昨日の夜に感じたものと同じで、一晩経てば収束すると思っていた筈のものだった。
(何だか、エマが笑うと心臓がもたないような――)
「止まりなさい!」
 彼女の感情を吹き飛ばさんばかりに凛とした声が周囲に響いたのは、その時だった。


  2010.01.04
  2012.12.02改訂
  2018.04.04加筆修正

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