top of page

間章 とある人々‐sign‐

 穏やかな風の吹く街。
 天へと届いてしまいそうな程に高く伸びた大樹の麓には、小柄な少年と長身の青年の二人が立っていた。彼らは何をする訳でもなく、大樹に顔を向けてそれを見上げながら、ただそこに佇んでいる。
 ――と、唐突に眼前の大樹が淡い輝きを灯し、天空へと無数の光を放ち始めた。
 そこでようやく、二人が動きと言う動きを見せる。
 少年はただ一言、
「……来訪」
 青年はただ一言、
「外れたようですね」
 そうとだけ呟いて。


 そして、もう一人。
 生物どころかその気配さえも希薄にしか感じられない、吹雪に覆われた極寒の大地が続く辺境の地で、少女は俯けていた端正な面をゆっくりと上げた。顔に垂れかかっていた髪を退けながら、その方向に目を向ける。
 そして、自分でも聞き取れないような声で、何かを呟いた。

 それは、すぐさま不規則に吹き荒ぶ風に攫われ、飛んでいくうちに空気中に溶け込み、次第に薄れて、そして最後は消えていく。
 再び顔に垂れかかってきた長い銀髪が、風に、揺れた。


  2009.12.01
  2018.03.27加筆修正

bottom of page